息子「地球という星の、人間になってこようと思う」
父「どこか行くのか?」
息子「うん。ちょっと離れるよ。どこに行っても見えてるだろうけど」
父「お前もまた見えてるだろうが」
息子「いや、そうでもないんだな。人間というのは、とっても狭くて小さなとこしか見えないんだ。おまけに忘れっぽい。おもしろいことにどんどん変化していくんだけど、狭いとこしか見えないから、自分がどういう風に変化してきて、どんな風になるのかもわからなくなるんだ。「今」ってものしか見えなくなる」
父「どうしてわざわざそんなようなところにいくんだ?」
息子「でも、おもしろいよ。いろんなものが物質として表現されているから、例えば豊かさっていってもぼくらは漠然と無限にあるって感じだけど、人間になったら、お金とか車とか家とか人とか、豊かさでもいろいろな形があるんだ。しかも豊かさがないということも経験できるし、驚くことに人間なら、愛がないということも経験できる」
父「ふむ。そういったことを経験したいんだな?」
息子「そうしたら改めて父さんのすごさも、ものすごいバリエーションでわかるだろうね」
父「わかった。それで、どれくらい人間になってるんだ? 地球という星がなくなるまでかい?」
息子「いや、もっと早いよ。しょっちゅう戻ってくる。人間っていう肉体は、すぐに滅びるようにできてるから」
父「それなら、たくさんの人間を経験できるな」
息子「そうだね。でも、時間ってものを感じるから、ひとつひとつがとても長く感じるだろうな」
父「わたしにとっては一瞬のことだが」
息子「それで、お願いがあるんだけど」
父「ふむ」
息子「人間として生きてる間、局所的ですごい狭い視野だから、あっちこっち迷ったり、あれしたいこれしたいと移り変わったり、不足とか憎悪とか、そういったものも感じると思うんだ」
父「いっていることがよくわからんが」
息子「まぁ、とにかくいつでも見守っててよ。それで、父さん的にぼくを導いてほしい」
父「もちろん。約束するよ」
息子「というか、地球も父さんの一部だから、父さんの思いで満たされてるけどね」
父「わかった。行ってきなさい。とはいえ、父さんと離れるわけではないがね」
息子「うまくすっかり忘れるよ。その分フォローお願い」
父「うむ。愛しているよ」